大阪家庭裁判所 昭和44年(少)781号 決定 1969年3月12日
少年 H・T(昭二七・二・一九生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
押収してある登山用ナイフ一本(昭和四四年押第一三五号)を没取する。
理由
一 事実
第一 非行事実
少年は
(一) 昭和四三年七月ごろ、大阪市城東区○○町○丁目○○番地株式会社○○○女子寮屋上物干場において、宮○三○所有のブラジャー二枚を、
(二) 同年一〇月ごろ、同市同区○○中○の○○山○金○方において、同人所有のタオル一枚、男物ステテコ一枚、男物ズボン一着、パンツ一枚、山○佳○所有のスリップ一枚、ブラウス一枚を、
(三) 同年七月○○日午前一時ごろ、同市同区○○町○丁目○○○番地先路上において、中○ス○エの現金二〇〇円、ネッカチーフ一枚、ブラジャー一枚、スリップ一枚、パンティ二枚、小銭入一個を、
(四) 同年同月○○日午前二時一〇分ごろ、同市同区○○北○丁目番地先路上において、大○幸○所有の現金一、〇〇〇円、手提カバン一個、手提袋一個、洗面具一式、化粧品五個、スカート二枚、シミーズ一枚、財布一個、小銭入一個を、
(五) 同年八月○○日午後一一時三〇分ごろ、同市同区○○○町○○番地○○荘アパートにおいて、保○ス○ノ所有の現金四、四〇〇円、ハンドバック一個、財布一個、ガマ口二個、定期券一枚、印鑑一個鍵一個を、
(六) 同年九月上旬ごろの午後一〇時三〇分ごろ、同市同区○○南○丁目○○番先路上において、倉○昭○所有の自転車一台を、
(七) 同旬ごろの午後一〇時三〇分ごろ、同所において田○真○所有の自転車一台を、
(八) 同年○月○日午後一一時三〇分ごろ、同市同区○○町○の○○○中○元○方において、同人所有の所有のカメラ一個を、
(九) 同年同月○○日午前一時三〇分ごろ、同市同区○○南通○丁目○番地○○荘○○号室において、隈○マ○ヱ所有のハンドバック一個、隈○稔名義の保険証一枚を、
(一〇) 同年○月○日午前一時ごろ、同市同区○○野○丁目○○番地○○工業株式会社寮内において、兵○増○所有の現金二万二、〇〇〇円、財布一個、トランジスターラジオ一個を、
(一一) 同年同月一五日午前二時ごろ、同市同区○○町○丁目○○番地株式会社○○又○明寮○階○○号室において、谷○美○子所有の現金三、七〇〇円、財布一個を、
(一二) 同年○○月○日午後一〇時一〇分ごろ、同市同区○○野○丁目○○番地先路上において、池○孝○所有の現金約一万四、〇〇〇円、小切手一通、背広一着、風呂敷一枚、絵皿五枚、万年筆一個、カメラ一個、池○泰○所有のハンドバック一個、コンパクト一個、財布一個を、
(一三) 同年同月中旬ごろの午後一一時ごろ、同市同区○○野○丁目○○○番地内○月○方において、同人所有の現金約一、〇〇〇円、ハンドバック一個、紙袋一個、財布一個、セーター一着、ジャンパー一着、ズボン一着を、
(一四) 同年同月下旬ごろの午前一時ごろ、同市同区○○中○丁目○○番地○○荘七号室において、金○豊○所有の現金四、〇〇〇円を、
(一五) 同旬ごろの午後九時ごろ、同市同区○○野○丁目○○番地先路上において、三○勲所有の自転車一台を、
(一六) 同旬ごろの午後一一時ごろ、同市同区○○野○丁目○○○番地先路上に駐車してあつた普通乗用車内から、今○義○所有の自動車エンジンキー二個を、
(一七) 同年一二月ごろ、同市同区○○南○の○○遠○正○方物干場から、遠○紀○子所有のパンティ二枚を、
(一八) 昭和四四年○月○○日午後一一時ごろ、同市同区○○南○丁目○番地井○幸○郎方において、同人所有の懐中電灯一個を、
(一九) 同年同月○日午前二時ごろ、同市同区○○町○丁目○○番地三○久○子方において、同人所有の振袖一着、長じゅばん一着を、
(二〇) 同年同月○○日午前一時ごろ、同市同区○○野○丁目○○番地○○荘四一号室において、珍○田○子所有の現金約二、〇〇〇円、トランジスター一台、鍵一個、キーホルダー一個を、
(二一) 同年同月○○日午後一一時四〇分ごろ、同市同区○○野○丁目○○○番地若○司方において、同人所有の現金一八五円、鍵一個、定期券一個、財布一個を、
(二二) 同年同月○○日午後一〇時二〇分ごろ、同市同区○○町官有地河○良○方先路上において、同人所有の自転車一台を、
各窃取した、
二 同年同月○日午後一〇時ごろ、同市同区○○野○の○○○鐘○紡績株式会社女子寮玄関内において、奥○美○子が手に持つていたハンドバックをひつたくり、これを窃取しようとしたが同人に騒がれて発覚をおそれ逃走したためその目的を遂げなかつた。
三 小遣銭に窮していた為強盗を思いたち、同年同月○○日午後九時四五分ごろから同市同区○○町○○○番地先路上の公衆電話ボックス附近の物陰にかくれて機をうかがつていたところ、午後一〇時ごろ、同電話ボックス内に入り電話を掛けようとした秋○和子(当二〇年)の姿を認めたので、その背後から所携の刃渡約一三・七糎の登山用ナイフ一本(昭和四四年押第一三五号)を突きつけた後、尚驚いて同電話ボックスを出て附近に転んだ同女の腹部に同登山用ナイフを突きつけて「静かにせい」と申し向けたところ、同女が必死に同登山用ナイフの刃先を両手で掴み、構わず大声を出して助けを求めたので発覚をおそれて少年は逃走し金品強奪の目的を遂げなかつたが、その際同女に対し全治七日間所要の左中指右手掌部切創の傷害を負わせた。
四 同日同時刻同所において、上記登山用ナイフ一本を携帯していた。
五 前掲一(一)の窃盗事実を除くほか、(一)昭和四三年四月ごろから同年一〇月ごろまで数回に亘り、前掲株式会社○○○女子寮二階屋上物干場に深夜忍び込み、同所に干してあつた同会社女子従業員のパンティ、ガードルなど多数をひそかに持ち出し、肩書住居に持ち帰つては自分ではいて見てその感触を楽しんだり、(二)又、同年一〇月ごろから同年一一月中旬ごろまでの間三回位に亘りいずれも深夜、大阪市城東区○○中○丁目○○番地○○荘アパート洗濯物干場に忍び込み、小○郁○所有のパンティ約一〇枚、ブラジャー、スリップ各五枚位をひそかに持ち出しては附近の道路上に拡げてその上で手淫をするなどして放置していたもので、少年は自己の徳性を害する行為をする性癖があり、その性格環境に照し、将来窃盗等刑事法所定の罪を犯す虞れがある、ものである。
第二 余論
司法巡査作成の犯罪事実一覧表中番号三の送致事実の要旨は、「少年は昭和四三年四月○○日午前〇時四五分から同年一〇月○○日午前二時までの間に四回に亘り、前掲株式会社○○○女子寮二階屋上物干場において、山○順○外七名所有のパンティ一七枚、ガードル二枚、ブラジャー二枚、ハンカチ一枚を窃取した」というのであり、同一覧表中番号一四の送致事実の要旨は「少年は昭和四三年一〇月ごろから同一一月中旬ごろまでの間三回に亘り、大阪市城東区○○中○丁目○○番地平和荘アパート洗濯物干場において、小○郁○所有のパンティ一〇枚、ブラジャー五枚を窃取した」というのである。
よつて審按するに、犯罪は構成要件に該当する具体的事実であつて、その事実は歴史的一回的行為であり特定性を有するものであるのに、この二件の送致事実は幾分特定性を欠き、被害品として桑○典○作成の被害届には上記番号三の送致事実に副う記載があり、又、小○郁○作成の被害届には上記番号一四の送致事実に副う記載があるけれども、少年の当審判廷における供述および司法警察職員に対する昭和四四年二月一四日付、一五日付各供述調書によるも、前掲非行事実欄一(一)の事実以外はいずれも盗取一回毎の日時、一回毎の被害物品の種類数量等を特定するに足る証拠はない。
しかし、これら二件の送致事実を少年の行状としてとらえ、その問題行動の時間、手段、方法、事後処理の仕方等を考えると虞犯事実として非行事実欄五(一)および(二)のように認定されるものである。
二 適用法条
非行事実欄一の各所為は刑法第二三五条に、二の所為は同法第二四三条第二三五条に、三の所為は同法第二四〇条前段に、四の所為は銃砲刀剣類所持等取締法第三二条第二号第二二条、五の行状は少年法第三条第一項第三号ニに各該当する。
三 処遇
一 (一) 少年は鹿児島県○○郡○○町立○○中学校二年生(昭和四〇年)のころから異性に関心を持ち始め、友人と一緒に女性風呂を夜遅く覗見したりして好奇心を充たしていた。その後昭和四二年一二月杉○硝子株式会社(大阪市城東○丁目○○番地)に就職したが、次第にその好奇心と小遣銭欲しさから、又巷間のエロ映画やポスターに刺激されて、単に覗見丈では満足出来なくなり、アパート等の洗濯物干場に夜間忍び込み、乾かしてある女性のパンティ、ブラジャー等の下着類を盗んだり、夜遅く風呂帰りの女性の背後から下着類が入つていると目される所持品をひつたくつたり、家人の隙を見て他人の家に忍び込み洗濯機中の下着類を盗むようになり、これら異性の下着類を暗い路地や公園で拡げて手淫をしたり、自宅に持ち帰つて身につけて見たりして悦に入つていたものである。本件非行の多くは少年のかような行動のあらわれである。更にそれが昂じてくると、行動し易いようにと登山用ナイフ(昭和四四年押第一三五号)を購入して予め非行事実欄三の非行に備えていたものであつて、その為現場附近を非行当日までに再三下見に向う等その行動傾向には幾分計画性が加味されており、又同非行には被害者である女性の身体に触れて見たいという動機も随伴しているようであり、少年の非行の度合は昭和四三年四月ごろをはじめとして次第に進展して来ている(少年の当審判廷における供述、司法警察職員に対する昭和四四年二月四日付、一三日付、一四日付各供述調書)。
(二) 少年はその非行の手段方法につき、
(イ) 夜間遅くハンドバック等を持つて帰宅しようとしている女性は持物を玄関等に置くと、直ぐ便所に行く習性がある、その間入口は無施錠であるから簡単に盗みができる。従つて、駅附近で待ち受け尾行し家の玄関等からハンドバッグ等を盗む。
(ロ)アパートは深夜であつても入口は開放されているから自由に出入り出来る。従つて階段や物置場等の陰にかくれて暫く待つと、誰かが便所に行つたり買物に出たりする。その間入口は無施錠であるから直ぐ侵入して盗みをする。
(ハ) 風呂帰りの女性は、物陰から急に飛び出して脅すと提えている着替えや財布、洗面具等を捨てて逃げるから、その中の現金や下着等を盗む。
(ニ) 自転車は犯行現場を物色するため、路端に置いてあるのを盗む。
(ホ) 深夜アパート等の物干から屋根伝いに隣の家に行き、無施錠の窓から侵入して盗む。
等と述べ、大胆旦つ計画的である(少年の当審判廷における供述、司法警察職員作成の「強盗致傷、銃砲刀剣類所持等取締法違反、窃盗、同未遂被疑事件報告書」と題する書面)。
二 少年の性格特性、心的力動機制としては、軽佻的で、気分基底は比較的明るいが、自信に乏しく充分自己主張が出来ない為、いじけた点やひがみつぽさが表面に見られる。自己中心性が強く、活動力もあるが、その行動統制が悪いので、時には独断的傾向を強く示し易い。対人接触は余り好まず、自信が持てず、仲間から疎外されたような気持は、自己主張や気分の発散が充分に出来ない丈に内向し易く、大集団の中ではとかく適応しにくい点がある。異性に対する関心はあるが、それに対する劣等感は強いようで少年にとつては話しをしたり、映画を見たりするような女友達は出来ず、周囲からの刺激によつて歪められた関心のみがたかめられていつた。しかし、この少年のいわゆるフェティシズム(庶物崇拝)の傾向は必ずしも人格基底的な固定化した状態でなく、一時的な状態であり、正常な性関係が結ばれるようになれば除去されるものと見られるとされている(鑑別結果通知書)。
三 両親は郷里鹿児島で農業を営み建在であるが、多子家庭であり経済的には余り恵まれていないようである。鹿児島にいる妹二名を残して姉二名と兄は都会に出て就労している。両親は子供の養育にはやや放任的であるように見受けられる(保護者吉○幸○の当審判廷における供述、鑑別結果通知書、少年謂査票)。
四 そこで、この少年の非行歴が比較的浅いに拘わらず急激に進展しており、いずれも単独犯で、大胆計画的な行動であること、しかも本件非行の多くが少年の歪められた性的関心によつて惹起されていることを考えれば、このような生活が習慣化することは少年の予後の為にも好ましくないと思料されるのでこの際少年を施設に収容し今迄の生活から切離し、集団生活を通じて対人接触を円滑にし、健全な自己主張が出来るよう矯正教育を試みることが適当である。
よつて少年法第二四条第一項第三号少年審判規則第三七条第一項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、なお押収してある登山用ナイフ一本(昭和四四年押第一三五号)は前掲非行事実欄三の非行に供した物で少年以外の者に属しないから少年法第二四条の二を適用してこれを没取することとしし、主文のとおり決定する。
(裁判官 宗哲朗)